シンクロする記憶

東京の声とシンクロする
今朝電車で見かけたあの人
さっきコンビニでレジに居たあの人
隣の車に乗ってるあの人


年齢も出身も、価値観だって違う
ただ共通しているのは、ここ東京に暮らしているということ
このラジオから聞こえるのは、そんな東京に暮らす、今を生きる人たちの声
会ったことが無いのに、自分に似ている言葉、知っているような感覚
声を聞いて想像して、自分に重ね合わせる
知らない誰かとシンクロする


(TOKYOFM シンクロのシティ オープニング口上(2019))

TOKYO FMの「シンクロのシティ」が放送開始から9年で最終回を迎えた。


この番組を聞き始めたのはおそらく2010年の秋で、進学やら卒論やらで将来に不安があるような時期だった。
近隣自治体の図書館に行きかえりする際の車の中や、夕暮れの院生室で、先の見えない暗中模索感と気ばかりが急く空回り感を抱えながら、まだ始まって日が浅かったRadikoで聞いていた。そんな時、口ロロの「Tokyo」をアレンジしたオープニングと、「東京の声」に注目した番組コンセプトが、安心をくれるような気がした。




番組を象徴するオープニング口上は、何度か変わっていて、一番好きなのは2015年ごろの堀内さんのオープニング口上の「ずっとこの街で暮らしている人も、今日偶然この街にいる人も。進化する東京とシンクロする」という言葉だった。
FMの平日ワイド番組の良さの一つは、タレントの個人的な話を聞くのではなく、一方でハガキ職人のネタを聞くのでもなく、市井の人々の声を拾い上げていくところにある。この番組は「VOICE収集隊」が街に出て行って、街の人の声を拾ってくるという点で、ハガキやメールに留まらず、いろんな人の生活や考えを紹介してくれた。下町の和菓子屋のお爺ちゃんに「好きな匂いって何ですか」と聞くと、「やっぱりコーヒーの匂いがいいね」と、少ししゃがれた声で帰ってくる。再開発の続く首都圏の話をきっかけに、街の占い師さんに「これから来る街ってどこですか」と聞いてみたりする変化球も楽しかった。
クリエイティブ・ディレクターで放送批評家の池本孝慈さんは「いい意味でも悪い意味でも、ああ東京だなあ、と思うラジオ番組」と評されていて、なるほどと思ったのだけれども、ポップで、ごった煮で、それでいて生活から離れない、そんな番組だった。



そのポップさの一端は選曲にあって、TOKYOFMの他のワイド帯の番組に比べて、洋楽中心だけどジャンルレスに紹介される曲に、「あ、この曲楽しい」と思わせてくれることが多かったように思う。それが、街の人の声や、その日のテーマに合った曲(BGMを含む)が、時には目の前の世界の色を変えたりもした。
番組開始以来、長らくエンディングテーマはThe eskargot milesのスカで、夕方から夜にかけての心の重さを、この曲を聞くたびに和らげてもらった気がする。


The eskargot miles - 君と笑えば
youtu.be

The eskargot miles - はじまりの毎日
youtu.be


平日日中に働くようになってからは、ほとんど聞けなくなって、たまに祝日でかつホリデースペシャルの無い日に聞くような感じになった。
2015年の秋の改編で、一度番組が終わりかかって、その後番組継続が決定するというドラマチックな展開になった件は、Twitter越しに眺めていた。


togetter.com


2016年の秋にはRadikoのタイムフリーが始まって、通勤しながら、ふと気が向いたときに、3時台のVoice of Tokyoだけ聞くような感じになった。
たまにスタッフの入れ替わりがあったり、コーナーが変わったりはするけれど、いつも堀内さんは変わらず、いろんな人の声を紹介して、みんなに「こんな世界もあるよ」と伝えてくれた。「いろんな人がいろんな生活をしていて、そして、あなたも世界から尊重されるんだよ」と言ってくれているような気がした。ちょっとした社会問題も取り上げながら、絶妙にバランスを取ってくる上手さがあって、それは「まだ、作られていないストーリーの種」と「その未完成なストーリーの残りを紡ぐリスナー」とを橋渡ししてくれるパーソナリティーの力量だったんだと思う。
この辺は耳目の一致しているところで、例えば『BRUTUS』773号(2014年3月15日号)の特集「なにしろラジオ好きなもので②」では、こんな書かれ方をしている。

堀内孝之は、多様な意見に耳を傾け、街のVOICEとして取り入れる対話型パーソナリティ。いつでもリスナーと一緒に考えようと、胸襟フルオープンで待ち構える現代のアニキ。意見が対立して白黒つけたがっている場合には「こういう赤もあるんだよ」と別次元の価値観を引用できる懐の深さ。開かれたラジオを実践中だ。
BRUTUS』773号, 2014年3月15日, p.31.


9年も番組が続いていて、しかしいつ聞いても、この感覚は続いていた。
最後の2か月ほどのエンディングテーマを歌っていたD.W.ニコルズのnoteで、ギターの鈴木健太さんもこう書いている。

僕はだいちゃんほどシンクロのシティは聴いていなくて、たまに聴いていたって感じだった。でも、たまに聴くたび、いつも同じ堀内さんはそこにいた。いつだってスタンスやものの考え方が一貫している。聴くのがたまにだったからこそ、よくわかる。

Farewell Party|D.W.ニコルズ BLOG|note


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23日にふらっと銀座ソニーパークスタジオに行って、生放送を聞いて、堀内さんとMIOさんと握手してもらった。確かスペイン坂スタジオの時も1度行ったような気がするけれど、銀座ソニーパークスタジオは視聴者を遮るガラスすら無くて、最後がここで良かったなと感じた。
最後のFarewell Partyには行けなかった。後からTwitterを見ていたら楽しそうで、お休み取って行ければよかったかな。寂しいな。でも、タイムフリーをちょっとだけ聞いて、D.W.ニコルズのこの歌詞が、ちょうどいいエンディングだなと思った。

今日の自分は80.0点 100点満点と見せかけて 実は80点満点
いつもの風景 さよならまたね。

Goodbye - YouTube